『くま』


 授業終わりのチャイムが鳴る。
 教室がざわつく。
 さっきの現文で、期末試験は全て終了。
 もうすぐ夏休みだ。
 友達が話しかけてくる。
 全然ダメとか、ヤマカン外した、英語の引っかけ悪質だとか。
 私は輪の中で笑いながら、シュウの姿を探した。
 昨日の晩は、かなり遅くまで明かりが点いていた。
 私の寝たのが二時過ぎだから、朝方まで起きてたんだろう。
 試験が始まってから、ずっとそんな感じだった。
 ――試験前にかけた言葉が、本当に効いたのかな?
「たまには抜いてみせてよ」
 今回も適当にやり過ごそうとしていたシュウに、私はそう言った。
 シュウはいつも通り、聞いてるんだか聞いてないんだか、涼しい顔のままだった。
 笑い声で、先週の帰り道から教室に引き戻される。
 世界史の教師の話題だった。
 シュウの姿は教室にない。
 友達に声をかけて、私は廊下に出た。
 たぶんいつもの所だろう。
 職員棟四階、階段の突き当たり。
 屋上に出る扉の前。
 予想通り、シュウはそこにいた。
 私はスカートのポケットを探る。
 防火扉にもたれた寝顔。
 長い睫毛。
 少し開いた唇。
 静かな寝息。
 腹が立つくらい可愛い。
 いつもの涼しげな表情からは、想像もつかない。
 そういえば、去年までは毎朝起こしに行ってたんだっけ。
 この寝顔にやられたんだよな。
 階下で誰かの話し声。
 遠ざかっていく。
 ――また、起こしに行ってやってもいいかな。
 私は、シュウの前にしゃがみ込む。
 マーカーのキャップを取ると、その目の下にくまを描いてやった。


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