『スカート』


「白ー!」
 タクジが叫びながら走り抜ける。
 ユミは慌ててスカートの裾を戻す。
「馬鹿タク! 先生に言いつけるからね!」
 あたしは、いつものセリフをタクジの背中に叩き付けた。
「人にバカとか言っちゃいけないんですぅー!」
 タクジは舌を出すと階段を駆け下りていく。
 振り向くと、ユミがタクジの走り去った廊下を見つめていた。
 赤いスカートにパフスリーブ。
 頭の後ろで編んだ髪。
 あたしには似合いそうにない、女の子した服装。
 涙目のユミに、あたしは声をかける。
「だいじょうぶ?」
「あ――、うん」
 ユミは小さくうなずく。
「タクジのやつ、調子に乗って……」
 ぴったりとした、グレーのデニムパンツ。
 あたしは自分の太腿を軽く叩く。
「スカート、はいて来ない方がいいよ」
「え!? ダ、ダメだよ!」
 珍しくユミが即答する。
「ダメ?」
「え、あ――」
 首をかしげるあたしに、ユミの顔がみるみる真っ赤に染まった。
「何でもない……」
 スカートの裾を押さえて、またうつむく。
 そっか。そうなんだ。
「馬鹿タク……」
 一言つぶやき、私はユミの手を取って教室に戻る。
 タクジへの想いは、胸にしまい込んだまま。


(464文字)