■
『スカート』
「白ー!」
タクジが叫びながら走り抜ける。
ユミは慌ててスカートの裾を戻す。
「馬鹿タク! 先生に言いつけるからね!」
あたしは、いつものセリフをタクジの背中に叩き付けた。
「人にバカとか言っちゃいけないんですぅー!」
タクジは舌を出すと階段を駆け下りていく。
振り向くと、ユミがタクジの走り去った廊下を見つめていた。
赤いスカートにパフスリーブ。
頭の後ろで編んだ髪。
あたしには似合いそうにない、女の子した服装。
涙目のユミに、あたしは声をかける。
「だいじょうぶ?」
「あ――、うん」
ユミは小さくうなずく。
「タクジのやつ、調子に乗って……」
ぴったりとした、グレーのデニムパンツ。
あたしは自分の太腿を軽く叩く。
「スカート、はいて来ない方がいいよ」
「え!? ダ、ダメだよ!」
珍しくユミが即答する。
「ダメ?」
「え、あ――」
首をかしげるあたしに、ユミの顔がみるみる真っ赤に染まった。
「何でもない……」
スカートの裾を押さえて、またうつむく。
そっか。そうなんだ。
「馬鹿タク……」
一言つぶやき、私はユミの手を取って教室に戻る。
タクジへの想いは、胸にしまい込んだまま。
(464文字)