『夏の贈り物』


「え? 寄って行くんちゃうん?」
 歩道の真ん中。
 エリが目を見開いて振り向く。
「今日は帰る」
「そ、そうなんか……」
 エリは悲しげな顔で、ランドセルの肩ひもを握りしめた。
 私は背中を向ける。
「バイバイ」
「ば、ばいばい――」
 そのまま走って家に帰った。
 二時半ちょっと過ぎ。
 私は押入れから、大きな袋を引っ張り出す。
 金魚の柄の浴衣。
 青いのと、赤いの。
 次は、机の奥の小さな封筒。
 お年玉の残り。
 ポケットに入れて、お母さんと車に乗り込む。
 おもちゃ屋から帰ってくると、もう五時。
 そろそろ暗くなる。急がないと。
 大きな袋をぶら下げて走る。
 背伸びしてチャイムを押す。
「ホノカ! どしたん?」
 驚くエリの鼻先に、持ってきた袋を突き出して見せた。


 二人で着替えて庭に出る。
 エリは赤い浴衣、私は青いの。
「エリ、綺麗だよ」
「アホ! なにいうてるんよ」
 色鮮やかに噴き出す火の粉の明かりに、エリが顔を背ける。
 目が少し腫れていた。
「これを持って」
 片手を取って長い棒を渡す。
 先端に付いた丸い円盤が、火花を散らしながら回り出した。
「ううわ!」
 エリが驚いて走り出す。
 私は、誕生日祝いの花火を持って、その後を追いかけた。


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