『聞いて欲しいこと』


 最近、アキに避けられている。
 理由はたぶんわかっている。
 私の言葉を聞きたくないんだろう。
 幼稚園の頃から、ずっとただの幼なじみ。
 でももう、私にとってはそうじゃなかった。
「他に何かありますか?」
 アキが、教壇から言う。
 みんなはもう帰り支度を始めている。
 手を挙げる者はいなかった。
「では、これで――」
 私は手を挙げる。
「はい、古賀さん」
「個人的な、事ですけど……」
 アキが、不審そうな表情になる。
 私はその目をじっと見つめた。
 レンズの奥の、少し冷めたような目。
 アキは不意に視線を逸らすと、小さく首を振った。
「個人的な用件なら、後にし――」
 唐突に私は、その場で立ち上がった。
 椅子が、派手な音を立てて倒れる。
 教室が静寂に包まれた。
 アキは黒板の前に立ったまま、私をみつめている。
 私は手を強く握り締める。
 教室の真ん中。
 ひとつ深呼吸をした。
「あなたに、聞いて欲しいことがあります」


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