『お断り』


 強い日差し。
 むき出しの腕を抱いて、カオリが笑顔を作る。
 シャッター音が鳴り響いた。


「ま、またやっちゃった……」
 公園の女子トイレ。
 カオリが力なく抱きついてくる。
「お姉ちゃん……、もうやだぁ……」
 私はカオリの背中をなでてやった。
 去年ちょっとしたCMに出て以来、カオリはカメラを持ったお兄さんたちに追い回されていた。
 雑誌とかの表紙にもなっていて、人気あるらしい。
 昔から頼まれると断れない性格だった。
 自分のおもちゃを人にあげて、後で泣いているのを何度も見た覚えがある。
 ずっとお隣同士で、一緒の幼稚園に通って、今は同じ小学校。
 去年突然、姉妹になった。
 親の都合ってやつ。
 意味がわかんないけど、私たちにはどうしようもない。
「次に写真とか言われたら、お断りします!ってちゃんと言うのよ?
 わかった?」
「う、うん……」
 トイレから出ると、またカメラを向けられた。
「写真撮らせて」
「ねぇ、ポーズとってよ」
 あんたらのおもちゃじゃないっての!
 今度こそ断らせないと!
「今よ!」
 私が叫ぶ。
 カオリはカメラのひとつに人差し指をつきつけると、
「さ、撮影はお断りにゃ!」
 言い放った。
 一瞬の沈黙。
「……なに、それ?」
「え! ちがうの!?
 私まちがってた!?」
 いきなり弱気になる。
 お兄さんたちは、間抜けな顔で口を開けて突っ立っていた。
 直後にシャッターの嵐。
「ふええ〜ん!!」
 走って逃げるカオリ。
「バ、バカ! 待ちなさい!」
 私は夏の太陽を背に、カオリの後を走り出した。


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