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『したい事』
大上段に振りかぶって、振り下ろす。
竹刀の切っ先が、宙の一点でピタッと止まる。
また振りかぶって、振り下ろす。
高めに結んだ髪の先が、胴着の袖を叩く。
私は一息ついた姉に歩み寄り、手拭いを差し出した。
「ああ、すまんな」
顔を拭い、姉はいつもの困ったような笑顔を見せる。
「ずっと見ていたのか?」
私は頷く。
「つまらんだろう?」
私は首を振る。
「そうか。ならよいが……」
姉は竹刀を担いで、思案する顔になる。
「お主はお主の、したい事をすればよいのだぞ。私の稽古など見ても楽しくあるまい?」
私は笑顔を見せる。
姉の思案顔は変わらない。
「何か、したい事があるなら言ってみよ。何でも叶えてやるぞ」
道場の窓が、長い日差しで床に格子模様を描いている。
「お主のしたい事、何かないのか?」
私は顔を上げる。
つま先立ちで、姉の唇に口付ける。
「―――!!」
姉は数歩よろめいて、唇に指を当てる。
私は笑って、姉に背を向けた。
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