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「アイリ?」
「えへへ」
「アイリ! どうしたの!?」
「からだ、おかしいの」
「おかしい?」
「うん。あたま、ふらふらする……すごくあついし」
「なんかされた?」
「あんま、おぼえてない」
「薬とかは?」
「わかんない」
「注射とかされてない?」
「わかんない」
「アイリ……」
「ゆめのなかに、いるみたい。
 チバ、会いにきてよ」
「………」
「ねぇ、聞いて。
 聞いてる? チバ」
「……うん」
「あたしが寝てるとこに、知らない人が連れられて来たんだ。
 細くて白くて生きてるって思えなかった。
 裸で目隠しされてて、手も縛られてたんだ。
 あたしにね、舐めろっていうの、その人のをさ。
 怖かったからあたし舐めたよ。
 汗ともどした時の匂いがしてさ、気持ち悪かったよ。
 どのくらいそうしてたのかな。
 でも、全然立たないんだ。
 あいつが来て、お前もう壊れたんだな。
 もういいよなって言ってその人の顔をつま先で蹴ったんだ。
 なんか自転車が倒れるみたいに、その人、床に倒れたんだよ。
 あたし、怖くて逃げたんだ。
 ベッドの陰で震えてた。
 バカ、アイリ怖いのか?
 怖くないだろ?
 俺はお前を大事にしてるだろ?
 痛くなんかしないだろ?
 ――って言いながら、その人の鼻に何かを突き刺したんだ。
 すごい声がして、あたしは耳をふさいだんだよ」